転職が決まったら、退職日までに残っている有給休暇(年次有給休暇)を使い切るのが基本です。この記事では、退職前に有給を消化する手順、会社に断られたときの対処法、有給消化中に転職先で働いてよいかどうか、有給消化中の過ごし方までをまとめて解説します。
結論:退職前の有給消化は労働者の権利。会社は原則として断れない

退職前の有給消化は、労働基準法第39条で保障された労働者の権利です。退職日が決まっている場合、会社は取得日をずらす「時季変更権」を事実上使えないため、正しく申請すれば原則として断れません。
転職前に有給を使い切るためのポイントは次の3つです。
- 残日数を確認する:給与明細・勤怠システム・人事部で、繰り越し分を含めた残日数を把握する
- 退職日から逆算する:退職日の直前に有給消化期間を置き、その前に引き継ぎを終える
- 入社日は退職日の翌日以降にする:有給消化中(在籍中)に転職先で働き始めない
有給消化とは?転職・退職時に知っておく基本ルール

有給消化とは、労働者が保有している年次有給休暇を、退職日までに使い切ることを指します。有給消化中も会社に在籍している状態なので、給与が支払われ、社会保険もそのまま継続します。
有給休暇の付与日数(正社員・パートの法定日数)
年次有給休暇は、雇い入れから6か月間継続して勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に付与されます。労働基準法第39条が定める最低日数は、勤続年数によって次のとおりです。
| 継続勤務年数 | 付与日数(週5日以上勤務) |
|---|---|
| 6か月 | 10日 |
| 1年6か月 | 11日 |
| 2年6か月 | 12日 |
| 3年6か月 | 14日 |
| 4年6か月 | 16日 |
| 5年6か月 | 18日 |
| 6年6か月以上 | 20日 |
週の所定労働日数が4日以下(かつ週30時間未満)のパート・アルバイトにも、日数に応じた比例付与があります。たとえば週4日勤務なら6か月で7日、週3日勤務なら5日です。雇用形態に関係なく、要件を満たせば正社員と同じく退職前に消化できます。
会社が法定より多い日数を付与している場合もあるため、正確な残日数は就業規則と勤怠記録で確認してください。
有給の時効は2年。繰り越し分を含めた残日数の確認方法
年次有給休暇の請求権は、付与日から2年で時効消滅します(労働基準法第115条)。前年度に使わなかった分は翌年度に繰り越されるため、退職時点の残日数は「前年度の繰り越し分+今年度の付与分」の合計です。
残日数は次の方法で確認できます。
- 給与明細の「有給残日数」欄
- 社内の勤怠管理システム
- 人事部・総務部への問い合わせ
- 就業規則の年次有給休暇の規定(付与日・繰り越しの扱い)
自分の記憶より多く残っていることも珍しくないため、退職を切り出す前に確認しておくと計画が立てやすくなります。
退職時に会社の「時季変更権」が使えない理由
時季変更権とは、労働者が指定した有給取得日が「事業の正常な運営を妨げる場合」に、会社が別の日に変更するよう求められる権利です(労働基準法第39条第5項)。時季変更権は取得日を「ずらす」権利であり、有給の取得そのものを拒否する権利ではありません。
退職日が確定している場合、退職日より後に変更する日が存在しないため、時季変更権は行使できないと解釈されています。つまり、退職日までの期間に有給を申請すれば、会社は原則として認めるほかありません。
転職前の有給消化スケジュールは退職日から逆算する

転職前の有給消化を確実にするには、「退職日」を起点にして、有給消化期間・引き継ぎ期間・退職を伝える日を逆算します。入社日を先に決めてしまうと、有給を使い切る日数が足りなくなりがちです。
最終出社日・退職日・入社日の関係
有給消化を組み込むと、最終出社日と退職日は一致しません。用語の関係は次のとおりです。
| 用語 | 意味 | 有給消化との関係 |
|---|---|---|
| 最終出社日 | 実際に出勤する最後の日 | この翌日から有給消化に入る |
| 退職日 | 雇用契約が終了する日 | 有給消化の最終日。在籍はこの日まで |
| 入社日 | 転職先との雇用契約が始まる日 | 原則として退職日の翌日以降 |
退職日の翌日を入社日にすると、健康保険や年金の空白期間が生まれません。退職日と入社日の間を空ける場合は、国民健康保険・国民年金への切り替え手続きが必要になります。
逆算スケジュールの例(有給20日の場合)
退職日が3月31日、有給残日数が20日(営業日換算)の場合の例です。
| 項目 | 日程の目安 |
|---|---|
| 退職の意思を伝える | 1月末〜2月初旬(退職日の約2か月前) |
| 退職届の提出・有給申請 | 2月中旬まで |
| 引き継ぎ完了 | 3月3日まで |
| 最終出社日 | 3月3日 |
| 有給消化期間 | 3月4日〜3月31日(20営業日) |
| 退職日 | 3月31日 |
| 入社日 | 4月1日以降 |
土日祝日は有給消化の対象日ではないため、「残日数=営業日」で数えます。月末が土日の場合は、最終出社日をさらに前倒しする必要があります。
退職を伝える時期の目安
民法上は退職日の2週間前に申し出れば退職できますが、有給を使い切るには退職日の1〜2か月前に伝えるのが現実的です。就業規則で「退職の1か月前までに申し出ること」と定めている会社が多いため、規則の期限も確認してください。
退職の伝え方は「転職の退職を上司に伝える方法7選」で詳しく解説しています。
退職前に有給を使い切る5つのコツ

有給を使い切れるかどうかは、退職を切り出す前の準備でほぼ決まります。実践する順番で5つのコツを紹介します。
1. 有給の残日数を正確に確認する
最初にやるべきことは、繰り越し分を含めた残日数の確認です。残日数が分からないままだと、退職日と入社日の交渉ができません。給与明細・勤怠システム・人事部のいずれかで確認し、日数をメモしておきます。
2. 退職の意思は早めに、口頭と書面の両方で伝える
退職の意思は、有給消化期間を確保できる時期に、まず上司へ口頭で伝え、その後に退職届を提出します。書面を残すことで「聞いていない」「言った・言わない」のトラブルを防げます。有給消化の希望も、退職の申し出と同時に伝えると調整がスムーズです。
3. 引き継ぎ計画を先に固め、有給消化を前提に組む
有給消化が認められにくい一番の理由は「引き継ぎが終わらない」ことです。退職を伝える段階で、引き継ぎ資料の作成日程・後任への説明日程・最終出社日をまとめた計画を用意しておくと、会社側も有給消化を前提に動きやすくなります。
4. 転職先の入社日を「退職日の翌日以降」に設定する
転職先には、内定承諾の前に「有給消化のため、入社日は〇月〇日以降を希望」と伝えます。承諾後に入社日を動かすより、承諾前に条件として伝える方が調整しやすいためです。入社日の目安は「退職日+1日」で、引き継ぎが延びる可能性がある場合は数日の余裕を見ておきます。
5. 使い切れない分は買い取りを相談する(会社の任意)
年次有給休暇の買い取りは、取得を妨げる形になるため原則として認められていません。ただし、退職時に消化しきれずに消滅する分を会社が買い取ることは、労働者に不利にならないため違法ではないとされています。
買い取りは会社の義務ではなく任意です。金額の基準も法律で決まっていないため、就業規則に買い取りの規定があるか確認したうえで、消化できない日数と理由を添えて相談します。合意した場合は金額と支払日を書面で残してください。
転職前に有給消化ができない・拒否されたときの対処法
退職前の有給消化を会社が正当に拒否できるケースは、ほぼありません。「できない」と言われたときは、理由ごとに対処します。
「退職前の有給は認めない」と言われたら
退職を理由に有給の取得を認めないことは、労働基準法第39条に反します。口頭で断られた場合は、有給申請書(または申請メール)を日付入りで提出し、記録を残してください。それでも認められない場合は、後述の相談窓口に相談します。
引き継ぎが終わらず日数が足りないとき
引き継ぎを理由に有給消化が短くなりそうな場合は、次の3つの選択肢があります。
- 退職日を後ろにずらす:転職先と入社日を再調整できる場合に有効
- 引き継ぎを圧縮する:引き継ぎ資料を先に完成させ、対面説明の日数を減らす
- 残った分の買い取りを相談する:会社の任意だが、消滅させるよりは交渉の価値がある
転職先の入社日が動かせない場合は、有給消化期間を削るより先に、引き継ぎの範囲を上司とすり合わせるのが現実的です。
就業規則の申請期限と欠勤扱いに注意
多くの会社は就業規則で「有給は〇日前までに申請する」と定めています。申請期限を守らずに休むと、有給ではなく欠勤として扱われ、給与が減る可能性があります。有給消化に入る前に、申請期限と申請方法(書面・システム)を就業規則で確認してください。
相談先:労働基準監督署・総合労働相談コーナー
会社が有給消化を認めない場合は、次の公的窓口に相談できます。
- 労働基準監督署:労働基準法違反の相談・申告先
- 総合労働相談コーナー:各都道府県労働局などに設置された無料の相談窓口
相談時は、有給申請の記録(申請書の控え、メール)、就業規則、給与明細を手元に用意しておくと話が早く進みます。
有給消化中に転職先で働き始めても大丈夫?
結論:退職日より前に転職先で働くのは避ける
有給消化中は前の会社に在籍している状態です。退職日より前に転職先で働き始めると、在籍中の副業・兼業と同じ扱いになり、現職の就業規則違反や保険手続きの重複が起こります。入社日は退職日の翌日以降に設定するのが原則です。
理由1:現職の就業規則(副業・兼業の制限)
多くの会社は就業規則で、在籍中の副業・兼業に許可制や禁止の規定を設けています。有給消化中であっても雇用契約は続いているため、転職先での就労はこの規定の対象になります。競合企業への転職では、退職後の競業避止に関する誓約書がある場合もあるため、あわせて確認してください。
理由2:社会保険・雇用保険は二重に加入できない
有給消化中は現職の健康保険・厚生年金・雇用保険に加入したままです。転職先で雇用契約を始めると、転職先でも加入手続きが必要になり、期間が重複します。雇用保険は複数の会社で同時に加入できないため、入社日の設定に矛盾が生じます。この重複を避けるためにも、入社日は退職日の翌日以降にします。
入社前の研修・顔合わせはどこまで問題ないか
雇用契約を結ぶ前の顔合わせや、無報酬の説明会程度であれば就労には当たりません。一方で、報酬が発生する研修や、業務指示を受けて作業する場合は就労と判断される可能性があります。転職先から入社前に研修への参加を求められた場合は、「退職日までは前職に在籍しているため、正式な就労は入社日以降にしたい」と伝えて日程を調整してください。判断に迷う場合は、現職の就業規則と転職先の人事に確認するのが確実です。
有給消化中の過ごし方|やっておくと安心な7つのこと
有給消化中は在籍中のため、収入がありながら時間を自由に使える期間です。入社後に慌てないために、次の7つを済ませておくと安心です。
- 転職先への提出書類をそろえる:年金手帳(基礎年金番号)、雇用保険被保険者証、源泉徴収票、マイナンバー確認書類、給与振込口座など。源泉徴収票と雇用保険被保険者証は退職後に前職から受け取ります
- 退職日・入社日の間に空白があれば保険の手続きを確認する:空白期間がある場合は国民健康保険・国民年金への切り替えが必要です。手順は「転職時の健康保険手続き5ステップ」を参照してください
- 住民税の納付方法を確認する:退職の時期によって、残りの住民税を最後の給与から一括徴収するか、自分で納付するかが変わります。人事部に確認しておきます
- 転職先の業界・業務の予習をする:入社後に使う社内ツール、業界用語、直近のニュースを確認しておくと立ち上がりが早くなります
- 健康診断・歯科などの受診を済ませる:入社後は時間が取りにくいため、定期的な受診はこの期間に済ませます
- 前職の私物・貸与品の返却と各種解約を済ませる:社員証、PC、名刺、健康保険証(退職日翌日以降)を返却し、社内の福利厚生サービスの解約も忘れずに行います
- 休養と生活リズムの調整:転職直後は環境変化で疲れやすいため、旅行や休養で心身を整え、入社1週間前からは出勤時間に合わせた生活リズムに戻します
入社日と有給消化の調整は転職エージェントに任せると楽になる
転職エージェントを利用している場合、入社日の交渉はエージェントが企業との間に入って行います。有給消化の日数を伝えれば、退職日の翌日以降で入社日を調整し、引き継ぎが延びた場合の再調整もエージェント経由で依頼できます。
株式会社アンリット(有料職業紹介事業 許可番号 13-ユ-319937)でも、退職スケジュールと入社日の調整を含めた転職相談を無料で受け付けています。有給消化と入社日の板挟みで悩んでいる方は、一度ご相談ください。
転職前の有給消化に関するよくある質問
有給消化中も給料は支払われますか?
支払われます。有給休暇を取得した日は、就業規則の定めに応じて「通常の賃金」「平均賃金」「標準報酬日額」のいずれかで賃金が計算されます。有給消化中も在籍しているため、給与の締め日・支払日は通常どおりです。
退職日と入社日は同じ日でもよいですか?
同じ日にはできません。退職日は前職との雇用契約が終了する日、入社日は転職先との雇用契約が始まる日で、1日のうちに両方の会社に在籍する形になるためです。入社日は退職日の翌日以降に設定します。
有給消化中に転職先で働くとどうなりますか?
現職の就業規則で副業・兼業が制限されている場合は規則違反になり、社会保険・雇用保険の加入期間も重複します。退職日より前に転職先で働くことは避け、入社日を退職日の翌日以降にしてください。
会社が「退職前の有給消化は認めない」と言った場合は?
退職を理由に有給の取得を拒否することは労働基準法第39条に反します。申請の記録を残したうえで、労働基準監督署または総合労働相談コーナーに相談してください。
有給を買い取ってもらうことはできますか?
会社の任意です。退職時に消化しきれずに消滅する分を会社が買い取ることは違法ではありませんが、買い取りに応じる義務はなく、金額の基準も法律にはありません。就業規則に規定があるか確認し、相談する形になります。
パート・アルバイトでも退職前に有給消化できますか?
できます。週の所定労働日数が少ない場合も比例付与の対象で、雇い入れから6か月以上勤務し、全労働日の8割以上出勤していれば有給が付与されています。退職前の消化も正社員と同じ扱いです。
有給消化中にボーナスや退職金は受け取れますか?
会社の就業規則・賃金規程によります。賞与は支給日に在籍していることを条件にしている会社が多く、有給消化中で退職日前であれば「在籍」に該当します。退職金の算定基準日も規程で決まっているため、人事部に確認してください。
まとめ:有給消化は「残日数の確認」と「退職日からの逆算」で決まる
転職前の有給消化は労働者の権利であり、退職日が決まっていれば会社は原則として断れません。使い切るための手順は次のとおりです。
- 繰り越し分を含めた有給の残日数を確認する
- 退職日から逆算して、最終出社日・引き継ぎ完了日・退職を伝える日を決める
- 退職の意思は口頭と書面で早めに伝え、引き継ぎ計画をセットで示す
- 転職先の入社日は退職日の翌日以降にし、有給消化中に働き始めない
- 使い切れない分は買い取りを相談し、拒否された場合は公的窓口に相談する
退職手続き全体の流れは「転職・退職手続きの流れ7ステップ」、内定後にやるべきことは「転職内定後にやるべき対応7選」で解説しています。
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